システム開発を進める手法にはさまざまな種類があり、そのひとつに「スクラム開発」が挙げられます。スクラム開発はシステム開発において広く採用されている手法のため、多くの企業でその手法に精通した人材が求められています。

そこで今回は、スクラム開発の概要やアジャイル開発との違い、スクラム開発のメリット・デメリットなどについてご紹介します。この記事を読んで、スクラム開発への理解を深めましょう。

スクラム開発とは？

スクラム開発とは、アジャイル手法のひとつで、少人数のチームに分かれて短期間の開発サイクルを繰り返すフレームワークを指します。「スクラム」の由来はラグビーのスクラムであり、スクラムを組むかのように開発においてもチーム力を大切にすることを象徴しています。
スクラム開発では、プロジェクトを複数の小さなイテレーション（スプリント）に分割し、各イテレーションで一定期間（通常は2〜4週間）の開発を行います。

アジャイル開発とは？

アジャイル開発とは、設計や開発、テスト、リリースなどの各工程を数週間から1か月ほどの短い期間で行い、これを繰り返しながらプロジェクトを進めるフレームワークのことです。ソフトウェア開発のためのアプローチであり、変化に対応し、顧客価値を迅速に提供することを重視します。
アジャイルの原則に基づいて開発された方法論やフレームワークは複数ありますが、それらは共通した価値観や原則に基づいています。

スクラム開発とアジャイル開発の違い

スクラム開発とアジャイル開発は、ソフトウェア開発における異なるアプローチやフレームワークを指しますが、一般的に次のような違いがあります。

定義された枠組み

まず挙げられる違いは、枠組みの定義です。

スクラム開発

スクラム開発はアジャイルの一種であり、特定の方法論のひとつです。
スクラム開発は明確に定義された役割（スクラムマスターやプロダクトオーナー、開発チーム）、イベント（スプリントやデイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ）、アーティファクト（プロダクトバックログやスプリントバックログ、増量）を持ちます。

アジャイル開発

アジャイル開発はソフトウェア開発のためのアプローチや原則を指し、スクラム開発のほかにもカンバン、エクストリーム・プログラミング（XP）、リーン開発など、さまざまな方法論やフレームワークが含まれます。アジャイル開発はスクラム開発以外の方法論も包括しているため、より広範な概念です。

役割とプロセス

スクラム開発とアジャイル開発は、役割とプロセスにも違いがあります。

スクラム開発

スクラム開発では、スクラムマスターがプロセスをファシリテートし、プロダクトオーナーが製品バックログを管理し、開発チームがソフトウェアの開発を行います。また、定期的なイベント（スプリントやデイリースクラムなど）があり、特定の役割とプロセスが明確に定義されています。

アジャイル開発

アジャイル開発にはスクラム開発以外にもさまざまな方法論やフレームワークがありますが、それらの多くは異なる役割やプロセスを持っています。
たとえば、カンバンではワークフローを可視化し、ワークインプロセス（WIP）制限を使用します。エクストリーム・プログラミング（XP）では、ペアプログラミングやテスト駆動開発（TDD）などのプラクティスが重視されます。そのため、アジャイル開発の方法論やフレームワークには異なる役割とプロセスがあるといえるでしょう。

スケールアウト

このほか、スケールアウトにも違いがあります。

スクラム開発

スクラム開発は大規模な開発プロジェクトにも適用されますが、そのためには、特定のスケーリング手法（例：スクラムオブスクラムス）を使用する必要があります。

アジャイル開発

アジャイル開発のほかの方法論やフレームワークも同様に、大規模な開発プロジェクトに適用されることがありますが、スケーリングに関してはそれぞれの方法論やフレームワークごとに異なるアプローチがあります。

スクラム開発はアジャイル開発の一部であり、アジャイル開発の特定の方法論のひとつです。アジャイル開発にはほかの方法論やフレームワークも含まれるため、スクラム開発とアジャイル開発は異なる概念ですが、スクラムはアジャイル開発の中でもとくに広く採用されている方法論です。

スクラム開発の主な特徴

スクラム開発の主な特徴には、以下の5つが挙げられます。

自己組織化されたチーム

スクラム開発では、チームが自己組織化されたのち、自らタスクを割り当てて問題を解決します。リーダーシップは共有され、決定はチーム全体で行われます。

進化的な開発

スクラム開発では、要件や設計がプロジェクトの進行に伴って変化することが想定されています。そのため、柔軟性を持って変化に対応することが重視されるのが特徴です。

短い反復周期（スプリント）

スクラム開発のスプリントは通常2〜4週間と短期間で、その間に機能の実装、テスト、反復を繰り返して進捗を確認します。

定期的な反省と改善

スクラム開発では、定期的な振り返り（リトロスペクティブ）を行い、チームがプロセスを改善する機会を持ちます。

優先順位付けされたバックログ

プロジェクトの要件はバックログとして管理され、その中から各スプリントに取り組むタスクが選択されます。バックログは優先順位付けされ、常に最新の状態を保ちます。

スクラム開発はソフトウェア開発に限らず、さまざまなプロジェクトやチームで適用されています。その柔軟性と迅速な反応性のおかげで、多くの組織がスクラム開発を採用しています。

スクラム開発のメリット

スクラム開発には、以下のような多くのメリットがあります。

顧客満足度の向上

スクラム開発では顧客のフィードバックを積極的に取り入れるため、顧客のニーズや要求を迅速に反映させることができます。その結果、顧客満足度が向上し、より価値の高い製品を提供することができます。

透明性と可視性の向上

スクラム開発では、定期的なイベント（スプリントレビューやデイリースクラムなど）を通じて進捗状況や問題点を明確にし、チーム内外の関係者と共有します。これにより、プロジェクトの進行状況が透明化し、チーム全体がより効果的にコミュニケーションを取れるようになります。

柔軟性と適応性の向上

スクラム開発は変化を受け入れ、柔軟に対応するためのフレームワークです。プロジェクトの進行中に要件や環境が変化しても、スクラムチームは素早く対応し新しい要求に迅速に対処できるでしょう。

品質の向上

スクラム開発には、定期的なテストや自己評価（スプリントレビューやスプリントレトロスペクティブ）を行うことで、品質を確保し改善していく文化があります。そのため、製品の品質が向上し、不具合や問題が早期に発見されます。

チームの自己組織化とモチベーションの向上

スクラム開発では、チームが自己組織化され、問題を解決する自己責任を持ちます。このような環境下で働くことで、チームメンバーのモチベーションが高まり、生産性が向上します。

効果的な時間管理

スクラム開発では、定期的なイベントや短期間のスプリントを通じて、時間管理が重視されます。チームは目標を達成するために必要な作業に集中し、無駄な時間やリソースの浪費を最小限に抑えることができます。

これらのメリットにより、スクラム開発は多くの組織にとって効果的なソフトウェア開発手法として広く採用されています。

スクラム開発のデメリット

スクラム開発には多くのメリットがありますが、その一方でデメリットも存在します。

初期の学習コスト

スクラム開発には、特定の役割やイベント、アーティファクトなどの概念が含まれており、これらを適切に理解し実践するためには学習コストがかかります。とくに従来の開発手法から移行する場合、チームメンバーや組織全体の文化の変化が必要であり、これには時間と労力が必要です。

柔軟性の限界

スクラム開発では変化に対応する柔軟性を重視しますが、一部の組織やプロジェクトではスクラム開発の枠組みがある程度の制約を与える場合があります。とくに大規模なプロジェクトや規模の大きな組織では、柔軟性の限界が問題となる場合があるでしょう。

適用範囲の限定性

スクラム開発は主にソフトウェア開発に適用される方法論であり、ほかの種類のプロジェクトや組織には適用しづらい場合があります。とくにハードウェア開発や非技術系プロジェクトでは、スクラム開発の適用に制約が生じることがあります。

適切な運用の難しさ

スクラム開発の実践は簡単ではありません。スクラム開発の理念・原則に従って適切に実践することが難しい場合があるのです。また、スクラム開発の成功には全体のコミットメントと継続的な改善の文化が必要です。

役割の混乱と負担

スクラム開発には明確に定義された役割がありますが、チーム内で役割の分担や責任の取り方について混乱が生じる場合があります。とくに新しいチームや未熟なスクラムチームでは、役割の理解や適切な配分が十分に行われない場合があります。

これらのデメリットは、スクラム開発を実践する際に注意すべき点であり、適切な対策やコミットメントが必要です。

スクラム開発のチーム構成と役割

スクラム開発のチーム構成と役割の例をご紹介します。

スクラムチーム

まず挙げられるのは「スクラムチーム」です。

開発チーム（Development Team）

ソフトウェアを開発するための実際の作業を担当するチームです。開発チームはクロスファンクショナルであり、プロジェクトに必要なすべてのスキルを持ち、スプリントの目標を達成するために協力します。

スクラムマスター（Scrum Master）

チームをサポートし、スクラムの原則やプロセスを遵守することを確保します。障害や問題の解決を支援し、チームの成長を促進します。

プロダクトオーナー（Product Owner）

次に挙げられるのは「プロダクトオーナー」です。
プロダクトのビジョンや目標を定義し、プロダクトバックログを管理します。また、顧客や利害関係者と連携して要件を収集し、優先順位付けを行います。さらに、開発チームにプロダクトのビジョンを明確に伝え、開発の方向性を指示します。

その他の関係者

最後に挙げられるのは「その他の関係者」です。

利害関係者（Stakeholders）

プロジェクトに関係する利害関係者や顧客、組織内の関係者などがあります。利害関係者はプロダクトに関するフィードバックを提供し、プロダクトオーナーと連携して要件や優先順位を調整します。

これらの役割とチーム構成は、スクラム開発のフレームワークにおける重要な要素であり、チームの協力と効率的な開発を促進します。

スクラム開発で知っておくべき用語

スクラム開発をより深く理解するためには、いくつかの重要な用語を知っておくことが重要です。以下は、スクラム開発でよく使われる用語の一例です。

これらの用語を理解することで、スクラム開発の基本的な概念とプロセスをより把握しやすくなります。

スクラム開発の流れ

スクラム開発は、一般的に以下のような流れで行います。

1.プロダクトバックログの作成

プロダクトオーナーが顧客や利害関係者と協力して、プロジェクトのビジョンや目標を明確にし、プロダクトバックログを作成します。プロダクトバックログには、プロジェクトに関するすべての要件や機能が含まれます。

2.スプリント計画会議

スプリント計画会議では、プロダクトオーナーと開発チームがともに次のスプリントで取り組むべき作業を決定します。プロダクトバックログから選択したアイテムをスプリントバックログに移し、そのアイテムに対するタスクや目標を設定します。

3.スプリント

スプリントは通常2〜4週間の期間で行われます。開発チームはスプリントバックログに含まれるタスクに取り組み、スプリントの目標を達成するための作業を行います。

4.デイリースクラム

開発チームは毎日デイリースクラムを行います。これは15分程度のミーティングで、チームメンバーがその日の作業計画や進捗状況を共有し、障害や課題を議論します。

5.スプリントレビュー

スプリントの終了後に、スプリントレビューが行われます。開発チームは顧客や利害関係者に対して、スプリント中に完成した成果物をデモンストレーションします。

6.スプリントレトロスペクティブ

スプリントレビューの後、スプリントレトロスペクティブが行われます。これはチーム内での反省と改善のためのミーティングであり、過去のスプリントの振り返りと今後の改善点を議論します。

7.次のスプリントの準備

上記のプロセスを繰り返し、次のスプリントに向けて準備を進めます。プロダクトバックログが更新され、次のスプリントの計画が立てられます。

このように、スクラム開発では短いイテレーションを通じて反復的に開発を行い、定期的なフィードバックと改善を重視します。

まとめ

スクラム開発は、サービスの開発スピードを高め、変更に適応しやすい柔軟性を兼ね備えている手法であるといえます。スクラム開発に携わる職種に転職する場合は、スクラムの基本的な考え方を理解し、その効果を最大化できるよう意識することが重要です。

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