さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが進んでいますが、それは保険業界も同様です。今、テクノロジーの力を活用して保険業界のビジネスモデルやサービスを革新する「InsurTech(インシュアテック)」が注目されています。
そこで今回は、InsurTech(インシュアテック)の概要や影響、現状・課題、関連職種についてご紹介します。エンジニアへの転職を検討している方は、ぜひご覧ください。
InsurTech(インシュアテック)とは
InsurTech(インシュアテック)は、「保険(Insurance)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた言葉で、テクノロジーの力を活用して保険業界のビジネスモデルやサービスを革新する動きを指します。
保険業界のデジタル変革を促進し、顧客にとっての利便性を向上させる一方で、保険会社にとっても競争力を高める重要な要素となっています。
InsurTech(インシュアテック)が保険分野に与える影響
InsurTech(インシュアテック)が保険分野にもたらす影響は幅広く、以下のような主要な影響が考えられます。
1.顧客体験の向上
顧客はオンラインプラットフォームやアプリを通じて、保険商品の比較、購入、契約管理、請求手続きを簡単に行うことができるようになりました。これにより、従来の複雑で煩雑な手続きが削減され、カスタマーエクスペリエンスが向上しています。
また、AIやデータ分析を活用して、個々の顧客に最適な保険商品を提案することが可能になり、顧客のニーズに合わせた保険商品を提供することができます。
2.コスト削減と効率化
保険金請求、契約書作成、顧客管理などの手続きが自動化され、従来よりも迅速かつ効率的に処理できるようになりました。これにより運営コストが削減され、保険料の引き下げや利益率の向上が期待できます。
また、ブロックチェーン技術を使ったスマートコントラクトにより、保険金の自動支払いが可能になり、保険請求処理がスムーズかつ信頼性の高いものとなっています。
3.新しいビジネスモデルの誕生
InsurTech(インシュアテック)の技術により、必要なときだけ保険を利用できる「オンデマンド保険」や、短期間や特定のリスクに対する保険が提供されるようになりました。たとえば、旅行中やイベント時のみの保険や、ライドシェアやシェアリングエコノミー向けの短期保険があります。
また、ピアツーピア(P2P)保険のように、個人がリスクを共有する新たな保険モデルが登場し、保険会社を介さずに同じ目的を持つ人々が集まり、リスクを分散させる仕組みが広がりつつあります。
4.リスク管理の精緻化
InsurTech(インシュアテック)はビッグデータとAIを駆使し、個人や企業のリスク評価をより正確に行うことができます。これにより、保険料の設定がより適正化され、保険会社もリスクを低減することが可能です。
また、データ分析を通じて顧客の行動や市場の変化を予測し、事故やリスクを未然に防ぐことができるようになっています。たとえば、健康保険でのフィットネストラッカーの利用により、保険契約者の健康状態をリアルタイムで把握し、適切なアドバイスを提供することができます。
5.競争環境の変化
InsurTech(インシュアテック)企業の登場により、従来の大手保険会社に挑戦する新たなプレイヤーが市場に参入しています。これにより競争が激化し、保険会社はより革新的なサービスを提供する必要に迫られています。
くわえて、保険会社による「InsurTech(インシュアテック)企業と提携し技術を取り入れることで新たな価値を提供する動き」が進んでいます。これにより、保険業界全体がテクノロジーの力を活用して進化しています。
6.規制とリスクの対応
InsurTech(インシュアテック)の普及に伴い、データセキュリティやプライバシー保護に関する規制が重要になっています。また、技術を使った自動化やAIの判断による保険金支払いなど、新しいリスクにも対応するための法的枠組みが必要とされています。
日本におけるInsurTech(インシュアテック)の現状と課題
テクノロジーを活用した保険業界の変革が進む一方で、るInsurTech(インシュアテック)独自の文化や規制による特有の課題も存在しています。以下は、日本のInsurTech(インシュアテック)に関する現状と課題の詳細です。
InsurTech(インシュアテック)の現状
InsurTech(インシュアテック)の現状は以下のとおりです。
1.インシュアテックの普及状況
日本ではとくにここ数年、InsurTech(インシュアテック)分野が急速に発展しており、保険会社がデジタル化に力を入れています。大手保険会社がテクノロジー企業との提携や、AI・ビッグデータ・IoTを活用した商品開発を進めているのです。
たとえば、SOMPOホールディングスや東京海上ホールディングスなどの大手保険会社が、AIを用いた事故処理やリスク分析の精度を高める取り組みを行っています。
2.新しいビジネスモデルの出現
日本でもオンデマンド型保険やP2P保険など、欧米で流行しているInsurTech(インシュアテック)の概念が取り入れられつつあります。
たとえば、オンデマンド型保険はスマートフォンを使ったシンプルな保険契約を実現しています。これにより、特定のリスクに対する短期間の保険や少額保険が利用者の間で人気を集めています。
3.デジタル化による効率化
保険金請求プロセスの自動化や、デジタルプラットフォームを利用した契約手続きが広がっています。とくに、AIやチャットボットを使って顧客対応を効率化する動きが進んでおり、これによって顧客の利便性が高まっています。
4.健康保険のテクノロジー活用
日本では健康志向が高まっており、健康増進を目的とした保険商品の開発が進んでいます。フィットネストラッカーやスマートフォンアプリを使って保険契約者の健康状態を把握し、その結果に基づいて保険料を調整するサービスが登場しています。
InsurTech(インシュアテック)の課題
InsurTech(インシュアテック)の課題は以下のとおりです。
1.規制と法的課題
日本の保険業界は厳しい規制のもとに運営されており、新しいビジネスモデルを導入する際には法的な制約や監督官庁の承認が必要です。
たとえば、オンデマンド型保険やP2P保険のような新しい形式の保険は、従来の規制に合致しない場合があり、事業展開が遅れることがあります。また、個人情報保護やデータのセキュリティに関する規制も厳格であり、テクノロジーの利用には慎重な対応が求められています。
2.消費者のデジタルリテラシー
InsurTech(インシュアテック)を利用するには、消費者側のデジタルリテラシーも重要です。とくに高齢化社会の日本では、高齢者層の多くがデジタル技術に慣れていないため、スマートフォンやオンラインプラットフォームを利用した保険商品へのアクセスに課題があります。そのため、若年層と高齢層の間でInsurTech(インシュアテック)の普及に格差が生じる可能性があります。
3.保険会社の技術投資
日本の大手保険会社はテクノロジーへの投資を増やしているものの、従来のビジネスモデルに固執している部分も多く、変革のスピードが遅いと指摘されています。
また、中小の保険会社は技術投資に対する予算が限られており、InsurTech(インシュアテック)の導入が難しい場合があります。そのため、技術導入が進んでいる企業とそうでない企業との間に格差が広がる可能性があります。
4.データの活用とプライバシー
InsurTech(インシュアテック)の進化に伴い、保険会社は大量のデータを収集・分析してサービスを提供していますが、消費者のプライバシーに関する懸念も高まっています。とくに健康データや位置情報など、個人に深く関わるデータの取り扱いについては、データ漏洩や不正利用のリスクが指摘されています。データ活用の利便性とプライバシー保護のバランスを取ることが課題です。
5.既存業界との競争と提携
テクノロジー企業やスタートアップがInsurTech(インシュアテック)の分野に参入することで、既存の保険会社との競争が激化しています。とくに、柔軟で迅速な対応が可能なスタートアップに対して、大手保険会社は組織の規模や複雑さから対応が遅れることが課題となっています。そのため、保険会社はスタートアップ企業との提携や技術導入を進める必要があります。
日本におけるInsurTech(インシュアテック)は、デジタル化や効率化に向けた取り組みが進む一方で、規制や消費者リテラシー、データ保護の問題など、特有の課題に直面しています。
今後技術の進展に伴い、これらの課題に対処しつつ、消費者と企業の双方にとっての利便性と信頼性を高めることが、InsurTech(インシュアテック)のさらなる成長に不可欠です。
InsurTech(インシュアテック)における注目職種
インシュアテック(InsurTech)の成長に伴い、IT系で注目されている職種はいくつかあります。これらの職種は保険業界のデジタル化、効率化、革新を支える重要な役割を果たしています。以下は、とくに注目されるIT関連職種です。
1.データサイエンティスト
データサイエンティストは、ビッグデータを分析し、顧客行動やリスク評価のモデルを構築する役割を担います。保険業界では、事故リスクや保険金支払いリスクの予測、カスタマイズされた保険商品の提供などにデータを活用します。
データサイエンティストに必要なスキルは、PythonやR、SQLなどのプログラミングスキルをはじめ、機械学習や統計分析、データ可視化、ビジネス理解などです。
なお、データサイエンティストについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
データサイエンティストとは?需要が高まっている理由から必要なスキルまでご紹介
2.AIエンジニア / 機械学習エンジニア
AIエンジニアは、人工知能を使ってリスク評価、保険金請求プロセスの自動化、顧客対応の改善などに貢献します。たとえば、保険契約者の健康データや運転履歴をもとに、リスクをリアルタイムで予測し、動的に保険料を調整するシステムを開発します。
AIエンジニア / 機械学習エンジニアに必要なスキルは、機械学習アルゴリズム、自然言語処理(NLP)、AIモデルの構築と運用、データ分析スキル、クラウドプラットフォームの知識(AWS、GCP、Azure)などです。
3.ブロックチェーンエンジニア
ブロックチェーンエンジニアは、ブロックチェーン技術を使ったスマートコントラクトや分散型保険プラットフォームの構築を担当します。スマートコントラクトにより、条件が満たされた際に保険金が自動的に支払われる仕組みを構築するなど、信頼性と透明性の高い保険商品を実現します。
ブロックチェーンエンジニアに必要なスキルは、ブロックチェーン技術の理解(Ethereum、Hyperledgerなど)、スマートコントラクトの開発(Solidityなど)、暗号技術、分散システムの知識などです。
なお、ブロックチェーンについては以下の記事で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
【完全版】ブロックチェーンとは?基本情報から市場価値・未来まで徹底解説
4.クラウドエンジニア
クラウドエンジニアは、保険業界のシステムインフラをクラウド環境に移行し、スケーラブルで効率的なIT基盤を構築します。クラウド環境を利用して、顧客データやリスク評価システムを安全かつ柔軟に管理します。とくにデジタル保険商品やオンデマンド保険を提供するためのバックエンドを支える役割です。
クラウドエンジニアに必要なスキルは、AWSやGCP、Azureなどのクラウドプラットフォームの知識、DevOps、インフラストラクチャ自動化(IaC)、セキュリティの知識などです。
なお、クラウドエンジニアについては以下の記事で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
クラウドエンジニアになるためには専門知識・スキルが必須!学習・経験を積んで理想の自分へ
5.サイバーセキュリティエンジニア
インシュアテック(InsurTech)企業は、顧客の個人情報やセンシティブなデータを大量に取り扱います。そのため、セキュリティ対策が重要であり、サイバーセキュリティエンジニアはデータ保護やセキュリティ脅威に対する対策を行います。とくにサイバー攻撃やデータ漏洩から顧客の情報を守る役割を果たします。
サイバーセキュリティエンジニアに必要なスキルは、セキュリティプロトコル、暗号技術、ネットワークセキュリティ、脆弱性診断、セキュリティ監視、GDPRや日本の個人情報保護法に関する知識などです。
6.UX/UIデザイナー
インシュアテック(InsurTech)において、顧客がスムーズに保険商品を利用できることは重要です。UX/UIデザイナーは、アプリやWebサイトの使いやすさや視覚的デザインを担当し、保険契約や請求のプロセスを簡単にするインターフェースを設計します。
UX/UIデザイナーに必要なスキルは、ユーザー行動の分析、プロトタイピング、デザインツール(Figma、Sketchなど)、A/Bテストやユーザーテストの実施、アクセシビリティの理解などです。
7.ソフトウェアエンジニア(フルスタック/バックエンド/フロントエンド)
ソフトウェアエンジニアは、保険会社のデジタルプラットフォームやモバイルアプリの開発を担当します。このうちフルスタックエンジニアは、フロントエンド(ユーザーインターフェース)からバックエンド(データベース、API)までの全体を開発し、エンドツーエンドで保険サービスをデジタル化します。
ソフトウェアエンジニアに必要なスキルは、 JavaScript(React、Angular、Vue.jsなど)、Python、Ruby、Java、API開発、データベース(SQL, NoSQL)、クラウド環境、DevOpsなどです。
8.プロダクトマネージャー
インシュアテック(InsurTech)のプロダクトマネージャーは、保険商品やデジタルプラットフォームの企画、開発、マーケティングを統括します。顧客ニーズや市場トレンドを分析し、技術チームと連携して最適な保険サービスを提供する役割を担います。
プロダクトマネージャーに必要なスキルは、ビジネス分析、プロジェクト管理、顧客体験設計、IT知識、保険商品に関する理解などです。
9.IoTエンジニア
IoTエンジニアは、IoT(モノのインターネット)を活用して契約者の健康状態や運転データなどをリアルタイムで取得し、保険商品に応用する役割を担います。これにより、リスク評価の精度が向上し、ダイナミックプライシングやリスク低減のためのアドバイスが可能になります。
IoTエンジニアに必要なスキルは、センサー技術、ネットワーク、データ収集・処理技術、IoTデバイスのセキュリティ対策などです。
10.API開発エンジニア
保険業界では、さまざまなシステムやプラットフォームが連携してサービスを提供するため、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の開発が不可欠です。
APIエンジニアは、保険システムと外部システムの連携やデータのやり取りを効率化するためのAPIを設計・開発します。
APIエンジニアに必要なスキルは、RESTful APIの設計、OAuthやJWTなどの認証技術、スケーラビリティの高いアーキテクチャの理解などです。
インシュアテック(InsurTech)は、保険業界の変革をテクノロジーによって実現しており、これらの職種は保険サービスの進化を支える重要な役割を果たしています。
それぞれの職種では、技術スキルに加えて、保険ビジネスに対する理解も求められるため、転職を検討している場合はその点も理解しておきましょう。
まとめ
InsurTech(インシュアテック)は、テクノロジーの力を活用して保険業界のビジネスモデルやサービスを革新する動きのことです。この動きを意識することは、保険業界に顧客体験の向上やコスト削減など、さまざまな影響をもたらすことから今注目されています。
InsurTech(インシュアテック)を進める場合、さまざまな分野のエンジニアの力が必要になるため、とくに保険業界・InsurTech(インシュアテック)企業ではエンジニアの採用が強化される可能性があります。そこでエンジニアとして活躍するためにも、転職を検討している方は今回ご紹介した内容を中心にInsurTech(インシュアテック)への理解を深めておきましょう。
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