テクノロジーの進化と社会の変化により、女性特有の健康課題に対する認識が高まり、社会的・経済的に大きな影響を与える分野「FemTech(フェムテック)」が注目されています。
そこで今回は、FemTechの概要や注目を集める背景、具体的なサービス、トレンド・課題、今後について解説します。あわせて、FemTech領域で活躍するIT人材もご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
FemTech(フェムテック)とは
FemTech(フェムテック)は「Female Technology(女性向けテクノロジー)」の略で、女性の健康やウェルビーイングに特化した技術・製品・サービスを指します。
生理や妊娠、更年期、性の健康、母乳・育児、婦人科疾患、メンタルヘルスなど、女性特有の健康課題やニーズを解決・支援するために開発されたテクノロジーを包括しています。
FemTechにまつわる製品・サービスは多岐にわたり、たとえば生理管理アプリや妊活サポート、乳がん早期発見デバイス、月経用吸水ショーツ、膣ケア製品などがあります。
さらに、デジタルヘルス、IoT、ウェアラブルデバイスなどの先端技術を活用し、女性の快適な健康管理をサポートしています。
FemTech市場は急成長中で、女性のQOL(生活の質)向上に貢献するだけでなく、企業や政府も女性の健康支援に注力する傾向が強まっています。
FemTech(フェムテック)が注目を集める背景
FemTechが注目を集める背景には、複数の社会的・経済的要因があります。
1.女性の健康ニーズの多様化と啓発の進展
女性の健康に関する情報の普及により、特有の健康課題やニーズへの理解が深まり、FemTechへの関心が高まっています。月経や更年期、妊娠などは長らくタブー視されてきましたが、近年では女性自身のウェルビーイングやQOL向上のため、これらの健康管理を積極的に行いたいというニーズが増加しています。
2.ジェンダーギャップへの意識の高まり
健康分野では、歴史的に女性のニーズが軽視される傾向がありました。しかし、性別やライフステージに応じた医療・健康支援の重要性が認識されるにつれ、とくに女性の健康を支えるFemTechが注目されるようになりました。
3.女性の社会進出とワークライフバランスへの配慮
多くの国で女性の社会進出が進み、働く女性のニーズに応えるテクノロジーやサービスの需要が高まっています。これにより、月経や妊娠などのライフイベントと仕事の両立、職場での生産性向上を支援するFemTechが関心を集めています。
4.デジタルヘルスとテクノロジーの進化
IoT、AI、データ分析技術などのデジタルヘルス分野の進化が、FemTechの発展を促進しています。これにより、生理管理アプリや排卵予測・ウェアラブルデバイスによる健康管理など、従来は困難だった健康状態の把握や予測が可能になっています。
5.投資家からの注目と市場の拡大
FemTech市場は成長が期待され、投資家や企業からの関心が高まっています。未開拓のニッチ市場であり、女性の半数以上が潜在的なユーザーであることからビジネスとしても有望視され、スタートアップや企業が積極的に参入しています。
これらの背景から、FemTechは女性のQOLを向上させる手段として注目され、社会的な支持を得ています。
日本と世界のFemTech(フェムテック)のサービス
FemTechは世界中で急速に成長しており、日本でもその重要性が徐々に認識されつつあります。以下に、日本と世界のフェムテックサービスの例を紹介します。
日本のFemTech(フェムテック)サービス
日本のFemTechサービスには、たとえば以下の4つがあります。
1.Clue(クルー)
Clueは、女性の月経周期や健康を管理するアプリです。生理日や排卵日、気分、体調などを記録し、AIを活用して周期に基づいた予測やアドバイスを提供します。
日本市場でも人気が高く、多くの女性が健康管理ツールとして利用しています。
2.革新的な生理用品
日本のFemTech市場で注目を集めているのが、使い捨てナプキンの代替品です。月経カップや高吸水性の下着(吸水ショーツ)がその一例です。
たとえば、日本のブランド「モフモフ」は、生理時の不便さを軽減する吸水ショーツを提供しています。
3.メディカルアプリ「メトリクス」
メトリクスは女性向けのヘルスケアアプリで、生理や排卵日、妊娠計画、体調記録などを簡単に管理できます。妊活中の女性や出産後のサポートとしても広く利用されています。
4.オンラインによるピル処方・更年期サポート
日本では、産婦人科や婦人科のオンラインサービスも登場しています。ピルの処方や更年期の悩みに関する相談が、オンラインで受けられるようになりました。エールピルや各種サプリメント提供サービスがその一例です。
世界のFemTech(フェムテック)サービス
世界のFemTechサービスには、たとえば以下の6つがあります。
1.Flo Health(フロー・ヘルス)
世界的に人気の高いFemTech関連のアプリで、月経周期や妊娠、排卵などに関する詳細なデータを記録し、予測機能を提供します。
ユーザーのデータに基づいて健康状態に関するアドバイスやサポートも行っており、世界中で数百万人が利用しています。
2.Elvie(エルヴィ)
Elvieは女性の健康に関する製品を提供するブランドです。
とくに注目を集めているのが、ウェアラブルの骨盤底筋トレーニングデバイス「Elvie Trainer」です。このデバイスは骨盤底筋強化のトレーニングをサポートし、産後や加齢に伴う骨盤底の弱さを改善します。
3.Kindara(キンダラ)
Kindaraは、月経周期や排卵日、基礎体温などを追跡できるアプリで、とくに妊活中の女性に人気があります。体調やライフスタイルの変化に応じてカスタマイズされたアドバイスを提供することから、妊娠を希望する女性にとって有用なツールとなっています。
4.Proov(プルーブ)
Proovは、排卵後のホルモンレベルを測定できるテストキットを提供しています。このサービスは妊活支援のために開発され、女性が自身のホルモンレベルを正確に把握することで、妊娠の可能性を高めます。
5.Elise(エリス)
Eliseは、女性の性生活に関する健康管理をサポートするFemTechアプリで、とくにセクシャルヘルスに焦点を当てています。
性的な健康問題について、ユーザーが匿名で相談できるプラットフォームも提供しており、デリケートな悩みに対するサポートを行っています。
6.Maven Clinic(メイヴン・クリニック)
Maven Clinicは、テレメディスン(遠隔診療)を活用したFemTech企業で、女性の健康に関する幅広いサービスを提供しています。生理や妊娠、出産後のケア、更年期に至るまで、専門医によるオンライン相談が可能となっています。
日本と世界で共通しているトレンドと課題
日本と世界のFemTechサービスにおいて、共通しているトレンドと課題は以下のとおりです。
【トレンド】デジタルヘルスの活用
両市場において、スマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを活用した健康管理が主流になりつつあります。これにより、女性はより正確に自身の健康状態を追跡し、適切なタイミングで医療サポートを受けられるようになっています。
【トレンド】女性の健康問題への意識向上
世界的に、女性の健康問題に対する意識が高まり、これらの課題を解決するためのテクノロジーが注目を集めています。とくに長年タブー視されてきた生理や妊娠、更年期に関する問題に対して、テクノロジーが重要な役割を果たすようになっています。
【課題】プライバシーとデータの安全性
女性特有の健康データを扱うサービスが多いため、プライバシーやデータの安全性が極めて重要な課題となっています。多くのFemTech企業はデータ保護を最優先事項とし、ユーザーの信頼構築に注力しています。
FemTech(フェムテック)の今後
FemTechの将来は非常に有望であり、以下のような発展が予想されています。
市場の拡大と多様化
女性の健康に関する課題は月経や妊娠だけでなく、更年期症状、骨盤底筋ケア、メンタルヘルス、性感染症予防、乳がん検診など多岐にわたります。今後はこうした幅広い分野でテクノロジーを活用した解決策が求められるでしょう。
この背景から、女性の健康管理を支援するウェアラブルデバイスやスマート機器、とくにホルモンバランスや生理周期を追跡する新しいデバイスの増加が予想されます。さらに、パーソナライズドヘルスケアや遺伝子解析を活用したサービスの普及も期待されています。
AIとデータ解析の進化
FemTech分野では、AIやビッグデータの活用が進んでいます。そのため、生理周期や妊娠の予測、さらにはホルモンバランスの解析により、個々の女性に最適なアドバイスを提供するシステムが発展していくでしょう。
また、より精密な健康データ解析により、ユーザー個々のライフスタイルや健康状態に基づきカスタマイズされたサービスが普及するでしょう。これにより、女性の健康管理がさらに個別化され、効果的な予防や早期発見が可能になります。
ジェンダーギャップ解消への貢献
FemTechは、これまであまり注目されてこなかった女性特有の健康課題の解消において重要な役割を果たします。女性の医療や健康問題への認識が高まり、これらの課題に対するテクノロジーの活用が進むことで、ジェンダーギャップの縮小が期待できるでしょう。
また、FemTechはへの注目が高まるなか、医療機関や研究機関が女性特有の健康問題に関する研究を加速し、より多くの革新的な治療法やケアが提供されるようになるでしょう。
社会的認知の向上
女性の健康やウェルビーイングへの関心が高まるなか、FemTechは社会全体での認知が進み、より多くの投資や支援を受けることが予想されます。企業や政府もこの分野に注力し、FemTechはサービスが普及しやすい環境が整備されるでしょう。
また、女性の健康問題に特化した政策や助成金の増加により、FemTechは企業への投資が加速する可能性があります。くわえて、生理休暇や育児支援などの社会的政策の整備も相まって、企業やスタートアップがFemTechは分野に積極的に参入するようになるでしょう。
グローバルな展開と連携
FemTechは先進国だけでなく、新興国でも注目を集めつつあります。とくに女性の健康に関する教育やサービスが十分でない地域において、テクノロジーを活用したサービスの提供が進むと予想されます。
また、アジアやアフリカ、中東などの新興市場でもFemTechの需要が高まると予想され、各地域に適したサービスや製品が登場する可能性があります。これにより、世界中で女性の健康問題へのアクセスが向上し、大きな社会的インパクトをもたらすことができるでしょう。
倫理的・法的な課題
FemTechの成長に伴い、個人データの取り扱いやプライバシー保護に関する倫理的・法的な問題がますます重要になるでしょう。とくに女性特有のデリケートな健康情報を扱うため、企業やサービス提供者には高い透明性が求められ、ユーザーの信頼を獲得することが不可欠となります。
また、ユーザーの健康データを扱う企業は厳格なプライバシー基準を遵守し、データ保護を強化する必要があります。GDPR(一般データ保護規則)やその他の規制に対応するため、FemTech企業は法律面でも細心の注意を払わなければなりません。
FemTech(フェムテック)領域で活躍する人材
FemTech領域で活躍する人材は、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するための多様なスキルセットを持っています。以下に、求められる主要なスキルと役割を紹介します。
1.データサイエンティスト / AIエンジニア
FemTechサービスの多くは、ユーザーから収集したデータ(生理周期やホルモンバランス、睡眠、運動など)を活用し、パーソナライズされたアドバイスや予測を提供します。そのため、データ解析とAI(人工知能)の活用能力が極めて重要です。
役割
女性の健康データを解析し、AIアルゴリズムを用いて生理周期や妊娠の予測、健康リスクの評価などを行います。また、機械学習や自然言語処理を活用したアプリの開発も担当します。
求められるスキル
・PythonやRを用いたデータ分析
・機械学習・深層学習
・データ前処理
・モデルのトレーニング
・自然言語処理(NLP) など
2.ウェアラブルデバイスのエンジニア
FemTech分野では、ウェアラブルデバイス(例:生理周期トラッカー、ホルモンバランス計測デバイスなど)を使用し、ユーザーの健康状態をリアルタイムでモニタリングするサービスが増加しています。これらのデバイス開発には、ハードウェアとソフトウェア双方のスキルが必要です。
役割
ウェアラブルデバイスの設計や開発、テストを行い、デバイスとスマートフォンアプリなどのソフトウェアとの連携を確保します。
求められるスキル
・ハードウェア設計
・IoT技術
・センサー技術
・組み込みシステム開発
・Bluetooth通信 など
3.ヘルスケアアプリの開発者
FemTechの中核的なサービスの多くは、スマートフォンアプリを通じて提供されます。生理周期の管理、妊娠・出産のサポート、更年期症状のモニタリングなど、女性の健康をサポートする多様な機能を持つアプリの開発は非常に重要です。
役割
FemTech向けのモバイルアプリを設計・開発し、ユーザーが直感的に使用できるインターフェースを提供します。また、データの同期やプライバシー保護にも配慮します。
求められるスキル
・モバイルアプリ開発(iOS、Android)
・UX/UIデザイン
・データベース設計
・バックエンド開発(API、クラウドサービス) など
4.プライバシーとセキュリティの専門家
FemTechはユーザーの非常に個人的かつセンシティブな健康データを扱うため、データのプライバシーとセキュリティは最重要課題です。とくに、GDPR(一般データ保護規則)やHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)など、個人情報を守るための法的規制の遵守が不可欠です。
役割
ユーザーの健康データを保護するため、暗号化技術やセキュアなデータストレージを設計・実装します。また、法的規制に準拠したプライバシー管理体制を構築します。
求められるスキル
・サイバーセキュリティ
・データ暗号化
・認証技術
・コンプライアンス(GDPR、HIPAAなど) など
5.プロダクトマネージャー
FemTech製品やサービスを市場に投入するには、ユーザーのニーズに合った戦略的な製品開発が不可欠です。プロダクトマネージャーは、ユーザー調査に基づいてプロダクトの方向性を決定し、チーム全体をリードして開発を進めます。
役割
女性の健康に関する課題を理解し、ターゲットユーザーのニーズを調査して、それに基づいたプロダクト戦略を立案します。開発チームと協力し、製品の設計・開発からリリースまでを管理します。
求められるスキル
・プロダクト戦略
・ユーザーリサーチ
・アジャイル開発の知識
・チームマネジメントスキル など
6.UI/UXデザイナー
FemTechサービスは、ユーザーにとって使いやすく、直感的に操作できることが極めて重要です。とくに女性特有の健康情報を扱うため、ユーザーインターフェース(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインは、心地よく信頼感を与えるものでなければなりません。
役割
ユーザー体験を最適化し、使いやすいデザインを提供します。また、デザインの段階でプライバシーやセキュリティにも配慮します。
求められるスキル
・UX/UIデザイン
・ユーザーリサーチ
・プロトタイピングツール(Figma、Sketchなど)の使用
・インタラクションデザイン など
7.ヘルスケアITコンサルタント
ヘルスケア業界における技術活用法をアドバイスする役割で、特にFemTech領域で活躍します。FemTech企業と医療機関、テクノロジー企業の橋渡しを行い、ビジネスモデルの策定やITインフラの最適化を支援します。
役割
女性の健康に関連するテクノロジー導入をサポートし、医療機関や企業に対して効果的な技術とその実装方法を提案します。
求められるスキル
・ヘルスケア業界の知識
・IT戦略
・システム統合
・ビジネスアナリシス など
FemTech領域で活躍する人材には、テクノロジーへの深い理解にくわえ、女性特有の健康問題に対する高い理解と共感が求められます。
データサイエンティスト、エンジニア、デザイナーなど、多岐にわたる専門職が協力し、テクノロジーを駆使して女性の健康をサポートするサービスを進化させています。
まとめ
FemTechは女性の健康やウェルビーイングを支援する重要な分野として、今後さらなる成長が期待できます。また、多様なニーズに応える革新的なサービスの登場も予想されます。
そのため、今後より一層データサイエンティストやエンジニア、デザイナーなどの技術者の需要が高まる可能性があります。エンジニアへの転職を考えているのなら、FemTechも視野に入れ、理解を深めながら知識・スキルを高めていくとよいでしょう。
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