建設業界、とくに建設現場のさまざまな課題を解決する手段として、今「ConTech（コンテック）」に注目が集まっています。
そこで今回は、ConTechの概要や注目されている背景、主な活用事例についてご紹介します。あわせて、ConTech領域で求められる人材も解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
ConTech（コンテック）とは？
ConTech（コンテック）とは、「建設（Construction）」と「テクノロジー（Technology）」を組み合わせた造語で、建設業界におけるテクノロジーやイノベーションを指します。これには、建設プロジェクトの設計や施工、運用、維持管理などの各段階で使用される最新の技術やツールが含まれます。
ConTechの主な目的は、建設プロセスの効率化、コスト削減、安全性向上、品質の確保などを実現することです。
ConTech（コンテック）が注目されている背景
ConTechが注目されている背景には、いくつかの要因があります。
1.建設業界の効率化と生産性向上の必要性
多くの国で建設業界は深刻な労働力不足に直面しています。とくに高齢化が進んでおり、新たな技術で労働力を補完する必要があります。
また、建設業界はほかの産業と比較して生産性が低いとされています。作業の多くが手作業であり、手間と時間がかかるため、新技術を導入することで効率化を図る動きが強まっています。
2.コスト削減と予算管理の重要性
建設プロジェクトはしばしば予算オーバーや納期遅延が発生することが多く、これを改善するために技術の導入が進められています。とくに、リアルタイムでの進捗管理や予測分析、効率的なリソース配分などを行うためのツールとして、ConTechが注目されています。
3.安全性の向上
建設現場での事故や安全問題は依然として大きな課題です。
この課題を解決する仕組みは、ドローン、IoT、センサー技術などを活用することで整えることができます。リアルタイムで危険を察知し事故を未然に防ぐことがで、安全性を高め、事故による損害を減らすことができます。
4.環境への配慮
環境問題への関心が高まるなか、建設業界でも持続可能な建築が求められています。ConTechを活用することで、省エネルギー建材の使用やエコ建築の実現が可能になります。
また、3Dプリンティングや再生可能エネルギーを使用した建設方法が普及し、環境負荷を低減させる取り組みが進んでいます。
5.技術の進化と普及
IoT、AI、BIM（Building Information Modeling）、ドローン、ロボット技術、3Dプリンティングなど、技術が急速に進化し、建設現場でもこれらのテクノロジーを活用する動きが強まっています。
デジタルツールを利用することで、設計から施工、管理まで一貫して効率的に行えるようになり、プロジェクトの透明性や精度が向上しています。
6.競争力の向上
建設業界でも競争が激化しており、ほかの企業との差別化が求められています。
新しい技術を取り入れた企業は、効率的かつ高品質なサービスを提供でき、競争優位性を確保することができます。
ConTech（コンテック）の事例
ConTechの具体的な事例には、以下でご紹介する技術やプロジェクトがあります。
1.BIM（Building Information Modeling）を活用した建設プロジェクト
ヒースロー空港拡張プロジェクトでは、BIMを活用して設計から施工、運用までの各フェーズで詳細な3Dモデルを作成しました。このモデルをもとにプロジェクトの進行状況をリアルタイムで把握したことで、設計変更や施工中の問題を迅速に発見・解決できたといいます。
BIMにより、設計ミスの減少やコスト管理が効果的に行われ、プロジェクトの効率が大幅に向上しました。
2.ドローンによる現場監視と測量
Skanska社はドローンを使って建設現場を監視し、リアルタイムで進捗状況を確認しています。ドローンに搭載したカメラで現場を撮影・測量し、建設作業の精度や進捗状況をデータとして収集。これにより、施工中の問題点を早期に発見し、現場での人員の移動や作業の最適化を進めています。
このほか、ドローンは測量や建物の外観チェック、作業員の安全確認にも役立っています。
3.AIと機械学習による施工管理の効率化
アメリカのTurner Construction社は、AIと機械学習を活用したプロジェクト管理ツールを導入しています。これにより、過去のプロジェクトデータを解析して施工中のリスクや問題を予測し、予算やスケジュールを適切に調整しています。
AIは、作業の進捗や資材の配達、作業員のシフト計画などを最適化するために使われ、プロジェクトの全体的な効率を向上させています。
4.3Dプリンティングによる建設
アラブ首長国連邦・ドバイに、世界初の3Dプリンティングで建設されたオフィスビルが完成しました。このプロジェクトでは、3Dプリンティング技術を使用して建材を製造し、迅速に建物の一部を組み立てました。これにより、建設期間の短縮とコスト削減を実現させています。
3Dプリンティングは、細かい設計やカスタマイズが可能であり、将来的にはさらに多くの建築物に導入されると予想されています。
5.IoTとセンサーを活用した安全管理
アメリカのMortenson Construction社では、IoTとセンサー技術を活用して、建設現場の安全性を高める取り組みを行っています。具体的には、現場にセンサーを設置し作業員の動きを追跡することで、危険なエリアへの立ち入りを制限したり、機械や設備の故障を事前に検知したりしています。
また、作業員にウェアラブルデバイスを提供して、健康状態や危険因子をリアルタイムでモニタリングしています。
6.ロボット技術を利用した自動化施工
日本の大林組では、建設現場にロボット技術を導入しています。壁の塗装や鉄筋の組立作業をロボットによって自動化しているのです。これにより、作業の精度が向上し、作業員の負担軽減や施工速度の向上が実現されています。
7.デジタルツインを利用した建物の運用管理
シンガポールではデジタルツイン技術を活用して、建物のリアルタイム運用データを収集し管理しています。建物のデジタルコピーを作成し、そのなかでエネルギー消費、温度、湿度、空気品質などを監視します。この情報をもとにエネルギー効率を改善し、運用コストを削減するための予測や最適化が行われています。
ConTech（コンテック）領域で求められる人材
ConTech領域で活躍している人材は、建設業界における技術革新を推進し、プロジェクトの効率化、品質向上、安全性の強化などを実現するために、さまざまな知識とスキルを活かしています。
この点から、ConTech領域では主に以下の役割が求められると考えられます。
1.BIM（Building Information Modeling）専門家
BIM技術を活用し、建設プロジェクトの設計、施工、運用に必要なデジタルツインを作成します。
具体的には、3Dモデリングやシミュレーション、コラボレーションツールを駆使して、プロジェクトの効率と品質を向上させます。
必要なスキル
・BIMソフトウェア（Revit、Navisworks、AutoCADなど）の知識
・3Dモデリング技術
・建設プロジェクト管理の理解
2.AI（人工知能）エンジニア
AI技術を活用して建設現場の効率化やリスク予測、施工の品質向上を図ります。また、AIによる需要予測、作業効率分析、リスク管理を支援するシステムを開発します。
必要なスキル
・機械学習、深層学習の知識
・データ分析・解析
・PythonやRなどのプログラミング言語
・建設現場におけるAI適用の理解
3.IoT（Internet of Things）エンジニア
現場に設置されたセンサーやデバイスを活用し、建設現場のリアルタイムデータを収集・分析します。これにより、安全性の向上や作業の効率化、資材管理の最適化を行います。
必要なスキル
・IoTデバイスの設計・管理
・センサー技術の理解
・クラウドコンピューティングおよびデータ通信技術
・ネットワークの構築と管理
4.ロボティクスエンジニア
建設現場で自動化したい作業（例：コンクリートの打設、塗装、解体など）のためのロボットを設計・開発・運用します。
必要なスキル
・ロボット工学の知識
・メカトロニクス（機械・電気・ソフトウェア統合）のスキル
・制御システム、センサー技術
・自動化技術（AI、機械学習との統合）
5.クラウドエンジニア
建設プロジェクトのデータをクラウド上で管理・共有できるシステムを構築します。クラウドベースでのリアルタイムデータの収集、コラボレーション、プロジェクト進行のトラッキングを可能にします。
必要なスキル
・クラウドプラットフォーム（AWS、Azure、Google Cloudなど）の理解
・サーバーレスアーキテクチャの設計・運
・データベース管理（SQL、NoSQL）
・DevOpsの知識
なお、クラウドエンジニアについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
クラウドエンジニアになるためには専門知識・スキルが必須！学習・経験を積んで理想の自分へ
6.ソフトウェア開発者
建設業界向けのアプリケーションやツール（プロジェクト管理ツール、施工監視ツール、進捗報告アプリなど）を開発します。また、現場のニーズに応じたカスタマイズや新機能の追加も行います。
必要なスキル
・プログラミング言語（Java、Python、C#、JavaScriptなど）
・ソフトウェア開発のライフサイクル理解
・アジャイル開発手法
・UI/UXデザインの基本的な理解
7.サイバーセキュリティスペシャリスト
建設現場で使用される技術やデータを守るため、セキュリティ対策を強化します。とくにIoTデバイスやクラウドシステムのセキュリティに特化し、データ漏洩やハッキングから守ります。
必要なスキル
・セキュリティプロトコルの知識
・サイバー攻撃対策（IDS/IPS、ファイアウォール、暗号化技術）
・ネットワークセキュリティ
・脅威分析およびリスク管理
8.データアナリスト / データサイエンティスト
建設プロジェクトから得られる膨大なデータを解析し、意思決定をサポートします。プロジェクトの進行状況やパフォーマンスを分析し、予測モデルを作成してプロジェクトのリスク管理や効率化に貢献します。
必要なスキル
・データ分析手法（統計学、機械学習）
・データ可視化ツール（Tableau、Power BIなど）の使用経験
・SQL、Python、Rなどのデータ処理・分析ツール
・プロジェクト管理や建設業界の基本的な理解
なお、データサイエンティストについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
データサイエンティストとは？需要が高まっている理由から必要なスキルまでご紹介
9.プロジェクトマネージャー（IT技術者として）
ConTechプロジェクトの実行を管理し、技術チームと建設チームの連携を確保します。また、新しいテクノロジーの導入において、スケジュールや予算、安全性、品質を管理します。
必要なスキル
・プロジェクトマネジメントスキル（PMPなどの資格）
・スクラム、アジャイル手法の理解
・テクノロジーと建設の知識の橋渡し
・リーダーシップとチーム管理能力
なお、プロジェクトマネージャーについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
プロジェクトマネージャーとは？主な仕事内容と求められるスキル、キャリアパスの例
まとめ
ConTech（コンテック）は建設業界の未来を形作る重要な要素とされており、今後ますます注目される分野です。技術の進化によって、従来の建設方法では実現できなかったことが可能になることで、業界全体の革新が進んでいきます。
そんなConTech領域では、BIM専門家やAIエンジニア、ロボティクスエンジニア、プロジェクトマネージャーなどの専門家が求められており、実際にこれらの人材が建設業界の効率化、品質向上、安全性強化、コスト削減に貢献しています。
そのため、もしConTech領域に興味があるのであれば、IT技術と建設業務を深く理解し、自らのスキルアップを図ることが重要です。
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