近頃よく見聞きするようになった「量子コンピューター」。今すぐにITエンジニアに影響を与えることはないといわれていますが、将来的に普及することが予想されているため、今のうちから理解を深めておくとよいでしょう。
そこで今回は、量子コンピューターの概要から量子コンピューターがもたらす技術革新、最新の動向などについてご紹介します。あわせて、ITエンジニアに求められる量子コンピューター関連のスキルも解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
量子コンピューターとは
量子コンピュータは、いわば「従来のコンピューターとは異なる原理で動作する新しい計算機」です。物質を構成する「量子」が持つ、重ね合わせの特性を利用して並列計算を行うことで、これまでにない速度・規模の情報処理を実現させます。
量子コンピュータは、主に以下3つの量子力学的な特性を利用しています。
1.量子ビット(キュービット):0と1の両方の状態を同時に持つことができる
2.重ね合わせ(Superposition):複数の状態を同時に保ち、並列計算が可能になる
3.エンタングルメント(Entanglement):量子ビット同士が強く結びつき、一方の状態が決まるともう一方の状態も即座に決定する
従来のコンピューターとの違い
従来のコンピュータ(古典コンピュータ)は、0か1の二進数を用いて計算します。
一方、量子コンピューターは量子ビットを活用することで一度に大量の計算を並列処理できます。そのため、特定の計算問題において圧倒的な速度で解を導き出すことが可能です。
量子コンピューターの方式
量子コンピューターには、以下3つの方式があります。
・超伝導型(Google、IBMが採用)
・トラップイオン型(IonQなどが採用)
・光量子コンピュータ(日本の研究機関などが開発中)
量子コンピューターがもたらす技術革新

量子コンピューターがもたらす技術革新は以下のとおりです。
計算能力の飛躍的向上
量子コンピューターの計算能力はとても高く、その速度は従来のコンピューターの約1億倍といわれるほど。従来のコンピューターの処理速度はやがて限界値になるといわれていましたが、量子コンピューターはその限界を超えて、無限にあるパターンから最適なひとつを見つけ出す計算を瞬時に行います。この能力は、ビッグデータの解析技術やAIの能力向上に役立てられます。
AI・機械学習の加速
量子コンピューターの並列計算能力により、ニューラルネットワークの学習やデータ解析が飛躍的に高速化されると期待されています。
暗号技術・セキュリティへの影響
量子コンピューターが普及すると、現在の暗号技術(RSA、ECCなど)が危殆化(きたいか)する可能性があります。そのため、量子耐性暗号(PQC)への移行が進められています。
金融・創薬・物流などへの応用
金融業界では、量子コンピューターの金融工学への応用が期待されています。
というのも、金融工学には計算が多く、現行のコンピューターでは金融取引やリスク評価を柔軟かつ即座に行うのが困難といわれています。これまでにない速度・規模の情報処理を持つ量子コンピューターなら、この課題を払拭できると期待されているのです。くわえて、最適な投資ポートフォリオの算出など、さまざまなシーンで活用できると予測されています。
創薬分野では、新薬の開発時に量子コンピューターを応用できると考えられています。
新薬開発時は、薬に使用する成分の分子の動きをさまざまな状況下を想定してシミュレーションします。そのため、時間がかかる上に、条件や分子を構成する原子の数が多いほど複雑になります。
このとき、計算能力が高い量子コンピューターを応用すれば、このシミュレーションを高速化できると期待されています。
物流分野では、サプライチェーンの最適化によるコスト削減への効果が期待されています。
そもそも物流分野は、労働力不足や異常気象、新型コロナウイルス感染症などによる需給の変化によって不確実性が増し、複雑化しています。そこで注目されているのが量子コンピューターであり、たとえば物流網に与える多様な影響の定量評価が叶い、サプライチェーンの最適化、ひいては意思決定の質向上が期待できます。
量子コンピューター関連の最新動向

ここでは、量子コンピューターの最新の動向について解説します。
Google、IBM、D-Waveなどの開発状況
Googleは「量子超越性」を達成したと発表しており、IBMはクラウド上で量子コンピューターの提供(IBM Quantum)を開始しています。D-Waveは商用の量子アニーリングマシンを開発し、量子コンピューティング技術がさらなる発展を遂げています。
国内外の量子コンピューター研究プロジェクト
日本では、理化学研究所や東京大学、NTTなどが開発を進めており、米国ではNASAやMITなどが研究しています。EU・中国に関しては、政府主導のプロジェクトが活発に動いています。
量子コンピューターをクラウドで試せるサービス
量子コンピューターをクラウドで試せるサービスとして、IBM QuantumやAWS Braket、Google Quantum AIなどが登場しています。
ITエンジニアに求められるスキルとキャリアパス
ITエンジニアが量子コンピューターに携わる場合、以下のスキルが求められます。あわせて、資格も取得しておくと転職を有利に進められるでしょう。

量子コンピューターに携わるITエンジニアとしてのキャリアパスには、量子アルゴリズム開発者や量子ハードウェア研究者、量子アプリケーション開発者などが挙げられます。
量子コンピューターがITエンジニアへ与える影響
現状、量子コンピューターは一部の環境でのみ利用されているため、ITエンジニアへ大きな影響を与えることはほとんどありません。しかし、研究が進むにつれて、その影響は徐々に大きくなっていくと考えられます。
量子コンピューターが普及しだすと、量子コンピューターに沿った新しいアルゴリズムが利用される時代が訪れるでしょう。ITエンジニアは今すぐに全面的な対応をする必要はありませんが、少しずつ量子コンピューターを理解し、基礎知識を身につけておくことが重要です。
まとめ
量子コンピューターは計算能力を飛躍的に向上させる技術であり、今後のIT業界に多大な影響を与えるといわれています。現時点でITエンジニアに大きな影響を与えるとはいえませんが、量子プログラミングや数学の知識を早期に学ぶことで、将来的なキャリアアップのチャンスが広がるでしょう。
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